2012.01.22 優れたドラマ
 今晩の第4話で最終回を迎えたNHK BS-TVの「開拓者」を見ました。

 主役を演じた女優は、年代が若いにもかかわらずその演技力には好感が持てました。

 私が番組に強く興味を抱いた理由は、新聞社にいた頃「中国残留孤児問題」を数年にわたって取材した事があるからです。「中国残留孤児」が生まれた背景には、政府が進めた「満蒙(中国東北地方)開拓」があります。
悲惨な運命に翻弄された開拓民の苦労は、多くの書籍や資料として残されています。しかし、その多くは被害者としての立場だけが強調されています。「開拓」とはいうものの、侵略により中国人の土地を収奪した、という視点が曖昧になっています。「買い上げた」とは言っても、安価で買いたたいたとされている土地です。
被害者と同時に、加害者としての視点も併せ持つことが大事なのではないでしょうか。

 満州開拓へは、貧しい府県ほど多くの開拓民を送り出しました。開拓問題の背景にはこのような事実もあり、根の深さを感じます。ドラマは、貧しい日本の農村と農家の次男、三男対策として政府が率先して満州へ送り出した背景も演出されています。更に、「開拓花嫁」として満州へ渡った農家の娘たちの存在も描かれていました。
ドラマで娘役を演じた主役の設定です。

 開拓地で幼馴染の中国人少年に「ここは元々中国人の土地」と語らせることで、開拓とは言え侵略であった事実をさりげなく展開しています。開拓民も現地で徴兵され、開拓地に残されたのは老人と女性と子供たち。国民を守るはずの関東軍は、新たな防衛線まで撤退。そこへソ連の参戦による侵攻により、開拓民は「棄民」として過酷な運命にさらされることになりました。集団自決や逃避行、食糧難など筆舌に尽くせない悲劇が始まりました。
そのような人たちに鞭打つつもりはありませんが、この事実は踏まえておかなくてはなりません。

 ドラマでは、中国残留孤児が生まれた背景も描かれていました。
招集された開拓民には、敗戦に伴う「シベリヤ抑留」という悲惨な境遇が待ち構えていました。多くの抑留捕虜が、酷寒の地で、重労働や食料不足により亡くなりました。

 かろうじて生き延びた開拓民が、やっとのことで帰国した日本には彼らを受け入れるゆとりはありません。生き延びるために、今度は故国の那須や北軽井沢で、再び開拓を始めることに。

 また、開拓団から憲兵として中国人虐殺にかかわった青年は、軍事法廷で戦犯の罪を問われることになり、「撫順戦犯管理所」に収監されます。許可を得て私も「戦犯管理所」を取材をしたことがありますが、ドラマではセットが非常に良く再現されていました。

 さて私は数度にわたり中国東北、いわゆる満州を訪れました。
長い鉄道の旅の末に黒竜江省勃利へ行きました。開拓地はさらに奥地にありますが、駅前というのに道路はドロンコ状態。深いわだちが残る道路に衝撃を受けました。戦前のわが国の極貧の農村でもこれほどでは・・、と思うような厳しい中国の現実がありました。

 シベリヤ抑留取材のため、ソ連にも行きました。このドラマは、たくさんの開拓者たちの証言により構成された、とあります。確かに、歴史の検証にも耐えうる脚本には共感が持てました。ドラマのラストに、証言者や資料を提供した方々の名前が紹介されましたが、「故」の文字が幾つもあり、時の流れを感じます。
「中国残留孤児」が訪日調査の為に来日した成田空港の場面では、当時のニュース映像がありました。厚生省担当者や孤児問題関係者の姿が多数ありました。しかし、そのほとんどの方々が、今では故人となっているようです。

 取材で親しくして頂いた多くの方々が故人となられたことに、胸が痛みます。
つい数日前にも、元開拓者で、帰国後は孤児問題の解決に尽力された方の死亡記事を見たばかりです。 

 娘役から老婦人まで演じた女優の演技力にも感動しましたが、ラストシーンには慟哭しました。 
低調・低俗なTV番組が大手をふるっている放送界にあって、今となってはNHKの存在が唯一の救いかも知れません。

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